絵の具のスペクトル(サクラマット水彩)

家に転がっていた20年位前のサクラマット水彩の拡散反射スペクトルを測定してみました。
なにせ古い絵の具なので、ひょっとすると今のものより彩度が落ちているかもしれません。

各々の絵具を画用紙に出してそのまま~1mm厚に広げ、乾かした後測定しました。
大西研の紫外可視分光光度計(日本分光 V-570)+積分球(ISN-470)にて測定。
100%の参照試料として用いた標準拡散板はスペクトラロン
数値データ(JCAMP-DX形式)

全データ


上段の12本の線が絵の具全12色のスペクトル、下段の虹のようなグラデーションは各波長における単色光の大体の色です。
まず、白色という色は400~700nmの可視光全域にわたって反射率が高い色であることがわかりますね。また、”あお”は400~500nmの青い光を、”きみどり”は500~550nmの緑色の光を良く反射することから青・黄緑色になることもわかります。さらに、”あか”や”しゅいろ”は600nmより長い、赤い光をよく反射するから赤くみえるわけです。
なお、スペクトルのそれぞれの線の色はCIE(1964)等色関数を使って標準の光D65下の色としてsRGB値に変換した値なので、実際の色を大体反映しているはずです。絵の具を塗る際、下地の画用紙が見えないようにかなり厚めに塗ったため、藍色やビリジアンはかなり黒っぽくなり、その結果反射率がかなり悪くなっています。

くろ・しろ・標準拡散版・画用紙


上段の4本の線が”くろ”・”しろ”・画用紙・標準拡散版のスペクトルです。下段は各波長の単色光の、各色での反射され具合を示します。
“しろ”は400nm~800nmの、人が見ることができる波長のすべてで高い反射率をもつことがわかります。一方、”くろ”は白と反対で、400~800nmの光をほとんど反射せず、吸収してしまい、その結果黒く見えるわけです。標準拡散版は、ここで表示しているすべて波長ので100%近い反射率を持つ物質で、白色です。今回の測定の100%の基準として使用しました。
画用紙も、白い紙ですから、400~800nmの範囲で高い反射率をもちます。ただし、蛍光増白剤が入っているので、ここで表示しているデータのうち400nmより短い波長では正しい反射率でない可能性が高いです。(この装置では紫外吸収の結果出た蛍光を反射光と間違えて検出してしまうため。)
白色えのぐは400nmより短い波長の光では反射率が落ちてしまっています。これは、白色絵の具の材料に酸化チタンや酸化亜鉛といった紫外光を吸収する物質が使われているためです。

ちゃいろ・あか・しゅいろ


上段の3本の線が”ちゃいろ”・”あか”・”しゅいろ”の3色の絵の具のスペクトルです。下段は各波長の単色光の、各色での反射され具合を示します。
これらの3色はどれも、600nmくらいから長い波長の光を反射するようです。600nmより長い波長の光は、赤い光です。その赤色の明るさによって、赤や茶色といった色の違いが出てくるのですね。

あいいろ・ビリジアン・あお・きみどり


上段の4本の線が”あいいろ”・”ビリジアン”・”あお”・”きみどり”の4色の絵の具のスペクトルです。下段は各波長の単色光の、各色での反射され具合を示します。
あおは400~500nmの青い光をよく反射するから青く、ビリジアンやきみどりは、500~550nmの緑色の光をよく反射するから緑色に見えるようです。
あいいろは見えにくいですが、やっぱり青い光をより多く反射します。

レモンいろ・やまぶきいろ・おうどいろ


上段の3本の線が”レモンいろ”・”やまぶきいろ”・”おうどいろ”の3色の絵の具のスペクトルです。下段は各波長の単色光の、各色での反射され具合を示します。
これらの3色はどれも、500nmくらいから長い波長の光を反射するようです。赤や青、緑のときはそれぞれの色だけを反射していましたが、どうやら黄色という色は、黄色い光だけが反射された結果見えているわけではなく、緑から赤い光がたくさん含まれた光が黄色く見えるようです。

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