3.5 気体分子の速度分布

根平均二乗速度

前節の分子あたりのエネルギーの式(3.4.8)から分子の平均速度を出すことができる。Etrans は分子の運動エネルギーだったので、$$E_{trans}=\frac12 m\overline{v^2}=\frac32 k_B T$$ $$\rightarrow \overline{v^2}=\frac{3k_B T}{m} \tag{3.5.1}$$ のように変形することができるだろう。
さらに、この量\overline{v^2}の平方根をとると、平均的な分子の速さが計算できることが分かるだろう。この値

$$\sqrt{\overline{v^2}}=\sqrt{\frac{3k_B T}{m}} \tag{3.5.2}$$

根平均二乗速度と呼ばれる。また、同じ温度でも、分子が重いと速度が遅いということもわかるだろう。なお、\overline{v^2}は速度の二乗の平均値である。速度\overline{v}の平均とは異なることに注意したい。*1速度 v には符号があるので +v に動く分子と -v に動く分子があって、平均すると0になることがあるが、その場合も v を2乗して平均した値は同じ0にはならない。

1次元並進運動の速度分布関数

それでは1個1個の分子の速度はどうなっているだろうか。ここまでの結果では平均的な速さは計算されたが、1個1個の分子の速さがどのような分布を取っているかはわからない。このような速度の分布は速度分布関数と呼ばれる。ある方向について、分子の速度分布がどのようになっているかを示す式は、

$$f(v_x)=\left(\frac{m}{2πk_B T}\right)^{1/2} e^{-\frac{mv_x^2}{2k_B T}} \tag{3.5.3}$$

となる。これは1次元並進運動の速度分布関数(1次元のマクスウェルの速度分布関数)と呼ばれる。速度なので符号があり、0を中心にしたガウス分布になっているということは、平均は0であるが、y, z 方向の速度成分もあるので分子が静止しているわけではない。1次元並進運動の速度分布関数を使うと、N 個の分子のうち x 軸方向について v_x から v_x+dv_x の範囲の速度で運動する分子の割合を、$$\frac{dN}{N}=f(v_x)dv_x \tag{3.5.4}$$のように書くことができる。


上図は窒素分子の場合の各温度での1次元並進運動の速度分布関数 f(v_x) である。

マクスウェルの速さ分布関数

速度ではなくその大きさ(速さ)のみを取り扱った場合、その平均は0ではない。また、その分布についても速度分布関数とは異なるものになる。3次元空間で速さについての分布関数を出すには、v_x^2+v_y^2+v_z^2がある値v^2になる組合せで確率を求めればよくて*2速度空間の体積素片 f(v_x)dv_x f(v_y)dv_y f(v_z)dv_z を球面で積分して出せる。詳細は現代物理化学p215あたりをどうぞ。、その結果は

$$\frac{dN}{N}=4\pi v^2 \left(\frac{m}{2πk_B T}\right)^{\frac32} e^{-\frac{mv^2}{2k_B T}} dv=F(v)dv \tag{3.5.5}$$

となる。この式は、マクスウェルの速さ分布関数(マクスウェル分布,マクスウェル-ボルツマン分布*3「ボルツマン分布」とは異なる。)と呼ばれる式で、分子がある速さになっている確率を示す式である。式としては対数関数と2次関数の掛け算なので、ある速さv_{mp}まで増大した後、指数関数的に減少して0に近づいている。ここでピークの速さv_{mp}は確率分布の最頻値であり、最大確率の速さと呼ばれている。


上図は窒素分子の場合の各温度での F(v) をプロットしたものとなる。

エネルギーの分布関数

エネルギーについてもその頻度の分布関数があり、

$$\frac{dN}{N}=2\pi E^{\frac12} \left(\frac{1}{\pi k_B T}\right)^{\frac32} e^{-\frac{E}{k_B T}} dE=F(E)dE \tag{3.5.6}$$

のようになる。これは先の速度分布の式のv^2部分を。2E/m で置き換え微分係数を dv から dE に置き換える操作をすることで出てくる*4\frac{dv}{dE}=\frac12 mE^{1/2} \rightarrow dv=\frac12 mE^{1/2} dE のように速度分布関数を置き換える。。これまで同様、分子のエネルギーがある値をとる確率を表す式である。


上図は窒素分子の場合の各温度での F(E) をプロットしたものとなる。

References
1 速度 v には符号があるので +v に動く分子と -v に動く分子があって、平均すると0になることがあるが、その場合も v を2乗して平均した値は同じ0にはならない。
2 速度空間の体積素片 f(v_x)dv_x f(v_y)dv_y f(v_z)dv_z を球面で積分して出せる。詳細は現代物理化学p215あたりをどうぞ。
3 「ボルツマン分布」とは異なる。
4 \frac{dv}{dE}=\frac12 mE^{1/2} \rightarrow dv=\frac12 mE^{1/2} dE のように速度分布関数を置き換える。