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回折格子シートを使った一般的な簡易分光器の製作
いろいろな光源に含まれる様々な色の光を波長ごとに分けるための道具が分光器です。
分光器にも種類があり、研究用に使用されるような高価なものから簡易的なものまで、いろいろな種類があります。大きなものだと、愛知県岡崎市の基礎生物学研究所には大型スぺクトログラフという、テニスコートくらいの大きさの分光器があり、生物に光を当てるのに使われていたりします。小さいものだとスマートフォンに取り付けて使うような分光器もありますね*1たとえば…スマートフォン対応 超小型分光計 GoSpectro。学校や科学館のワークショップなどでよく作られる簡易分光器は、光源をスリットから導入しながらのぞき込むことで、スペクトルが見えるようになっているもので、キットも販売されていますし*2たとえば…簡易分光器製作キットMJや簡易分光計製作キット YD-10など。、CDやDVDを使って自作することもできます*3たとえば
「イラストレイテッド 光の実験,大津 元一(監修)/田所 利康(著), 2016年, 朝倉書店」ではCD-Rを使った簡易分光器の作り方が紹介されています。こちらはデジタル一眼カメラ用ですが、透過型回折格子(反射膜を除去したCD-R)とスリットで構成されているという点ではこの記事と同様のものになります。
「コンパクトディスク (CD) を使った簡易分光器(小・中・高のページ),化学と教育 44巻 10号 (1996) p.676」ではCDを反射型回折格子とした簡易分光器が紹介されています。
「光を分ける—簡易分光器とそれを使った実験,化学と教育 65巻 2号 (2017) p.76-79 (型紙)」でもDVDを反射型の回折格子として使った簡易分光器が紹介されています。こちらの分光器はコンパクトでスマートフォンにも使いやすい分光器ですが、内部に1枚貼り付けて使用している鏡をどうすればよいか戸惑うかもしれません。
「セッピーナの趣味の天文計算」というサイトでもDVDを使用した簡易分光器が紹介されています。こちらもDVDを反射型の回折格子として使用して、高分解能のスペクトルが得られています。。
今回は肉眼でスペクトルを見るのに使えるだけでなく、デジタル一眼カメラでも使えるような簡易分光器の製作方法を記事にしてみました。まずはこのページで一般的な簡易分光器(レンズを使用しないもの)を紹介した後、虫眼鏡を使用する拡大タイプの分光器を次の記事で紹介します。
製作方法
必要なもの
- 台紙→こちらの用紙および裏面をダウンロードしてA3サイズの厚紙に印刷します。
- 1000本/mmの回折格子シート:回折格子シート 1000本/mm(Amazon.co.jp)、1,000 Lines/mm Linear Diffraction Grating Sheet(Amazon.com)、回折格子シートレプリカ1000(ケニス)など。
またはCD-Rを8分割してレーベル面にガムテープを貼って反射膜を取り除いたもの。 - 両面テープ・セロハンテープ
- 製作方法の説明書(印刷用)もあります。
作り方
0.回折格子の準備
回折格子シートを使用する場合は4cm×4cm角くらいの大きさに切ってください。
CD-Rを使用する場合、銀色の反射コートがついたままだと使用できませんので、以下の手順で反射膜を取り除き、向こう側が見える状態にしてください。
※CDの反射膜の取り除き方については以前行ったライブショー動画でも紹介していますのでそちらも参照ください。
- CD-Rを切って8等分くらいにします。(普通の銀色の音楽用CDやDVD、DVD-Rは使えません)
- レーベル面(白いことが多いです)にガムテープを張ります。
- ガムテープをはがすして銀色の部分を剥がして透明にします。
- 銀色の部分が残っている場合はさらにガムテープを何度かくっつけてください。
1.台紙をできるかぎり厚いA3厚紙に両面印刷してください。
表面に切取線が印刷され、裏面はほぼ真っ黒になったものが台紙になります。
工作用紙くらい分厚いと厚すぎてコピー機を通らないことが多いです。
コピー機を通るなかで最も厚いもの*4たとえばダイソーのA3片面コート厚紙4枚,厚さ0.385mmはコピー機(Fuji-Xerox DocuCentre-VII C4473)のA3トレイ自動給紙の印刷は難しかったですが手差しトレイ給紙時に少し押し込んでアシストすると印刷できました。モンディハイパーレーザーコピー A3 250GはA3トレイから印刷可能でした(ダイソーの片面コート厚紙に比べると少し薄手です)。ダイソーの厚紙両面白色A3用4枚入りについては、A3より少し大きいので切り取ってA3サイズに合わせて試しましたが、片面コートタイプよりさらに分厚いので、手差しトレイで相当タイミングよく押し込まないとコピー機に入っていきません。ダイソーならA3片面コート厚紙のほうをおすすめします。を使用してください。
2.台紙を切り取り線に沿って切りぬきます
※綺麗に作るには、山折りする箇所も軽く(紙を切ってしまわないように表面をなでる程度に)カッターナイフを通しておくとあとで折り曲げやすくなります。
3.使用する回折格子に応じて窓の部分(グレーの部分)もカッターナイフで切り抜きます
回折格子シートを使う場合は回折格子シート用の大きい穴、CD-Rを使用する場合はCD-R用の小さい穴をあけます。両方使用して比較するのもよいと思います。
4.スリットを作ります。
- カッターナイフでスリットを切り抜きます
- 細く、まっすぐなスリットを作るとはっきりしたスペクトルになります。
- スリットが太いと明るいスペクトルになりますが、細かな構造は見づらくなります
- きれいなスリットが作れるように何度か練習してみてください。
- うまくあけられなかったときは、太めの穴をあけて、うまくできた練習用スリットをはりつけてください
5.組み立て
- 両面テープをグレーの部分に貼って四角い筒状にします。
- スリットの面の周囲の両面テープ貼り付け部分(裏の黒い部分)に両面テープを貼り、スリット以外から内部に光が漏れないようにふたをします。
※漏れる場合は黒テープ・アルミテープなどを外から貼って遮光してください。 - スリットと反対側の穴に回折格子もしくは透明にしたCD-Rを貼り付け、回折格子の面をテープなどで閉じればできあがりです。
※回折格子には向きがあります。使用例で示したような形でスペクトルが見える方向が正解です。
※CD-Rのレーベル側(ガムテープで銀色部分をはがした面)が内側になるように貼り付けたほうが安全です。 - 使うときは、回折格子側からのぞき込み、スリットから光源が見えるような持ち方をしてみてください。スリットとは違う方向(前方)にスペクトルが見えるようになります。
使用例
回折格子/CD-Rの穴からのぞき込み、スリットから光源が見えるようにするとスペクトルが見えてきます。
この分光器は2022年の3月に千葉市科学館で行われた「科学と未来の学校2021」の第3回「光を分けると見えてくるもの」を野本が担当した際に小学生とその保護者を対象に製作したものです。そのときは様々な光源のスペクトル観察も行いました。
見てみると面白い光源など
- 白熱電球:青~赤の連続スペクトルが見えます
- LED:青色と、緑~赤色のスペクトルが見えます
- 蛍光灯(白色):連続スペクトルのほかに緑色の輝線が見えます
- 蛍光灯(三波長型):紫・緑・黄色など何色かの輝線が見えます
- 信号機(LEDの赤黄青):各色違うスペクトルが見えるはずです
- 太陽に照らされた雲や建物の白壁:太陽の連続スペクトルが見えます。分光器をうまく作れば(スリットが細ければ)太陽にある元素由来の暗線(フラウンホーファー線)が見えることもあります。
※危険なので太陽は直接見ないでください - 夜の街灯や車のヘッドライト:水銀ランプのスペクトルが見える場合、白色LEDのスペクトルが見える場合、ほかのスペクトルが見える場合などあります。
- 花火:赤や青、緑、橙といった色に応じて異なる輝線スペクトルが見えます。*5花火のスペクトルとしては「【第46回】科学ライブショー「ユニバース」on YouTube Live」もご覧ください。また、(株)グリーン・パイロラントの「分光器で計測したスペクトル」というページも参考になりそうです。
※火を使うので分光器を近づけないように注意
以下の動画でも各種スペクトルを紹介していますので、参考にどうぞ。
分光実験@科学ライブショー「ユニバース」 on YouTube Live
カメラを取り付ける場合
回折格子がカメラのレンズの真ん中に来るようにテープなどで固定して、必要に応じてズームしてください。オートフォーカスがうまく働かないこともあります。その場合はマニュアルフォーカスで調整してください(したがってマニュアルフォーカス可能なズーム付きデジタルカメラが使いやすいです)。
原理
この項で紹介した簡易分光器は使用例に掲載した図にも示した通り、スリットを通して観察したい光源の光が入ってくるような方向に分光器を向けながらもう一方の穴を覗き込むことで、箱の中に色が分解したスペクトルが見えるというものです。構造としては上の使用例の項目の図でも示したように、箱の片面にスリットがあり、もう一方の面の穴には透過型回折格子が貼ってあります。
透過型回折格子は透明の板やシートに細かい溝が形作られたもので、LEDや蛍光灯など白色光が入ってくると、光が透過する方向とは違う方向に、色が分かれて出ていくような光学素子です。この時出ていく方向は色ごとに(波長ごとに)違っているのでスペクトルが見えるようになるわけです。
実際の簡易分光器では、
1.スリットから入った光が回折格子のいろいろな場所を照らします。
2.回折格子上のそれぞれの場所で回折された光が目に入りますが、それぞれの色の光は回折される方向が違うので、目に入る方向が違ってきます。
3.これが赤から緑、青といったスペクトルのグラデーションとして観察されることになります。
まとめ
…というわけで、今回の記事では一般的な簡易分光器の作り方を紹介しました。学校や科学館などで製作される簡易分光器はほぼ同じ構造になっています(キットとして販売されている簡易分光器だと形が少し違っていたり工夫されていることもありますが)。スリットで分解能が概ね決まるため、明るい光源では分解能も上げやすく、また作りやすい分光器になっていると思います。
次の記事では、虫眼鏡を内部に組み込んで、暗い光源にももうすこし対応しやすい分光器を紹介します。
ダウンロードファイルのライセンスについて
上でダウンロードできる台紙と製作方法プリントはCC BY-SAライセンスで配布しますので、自由に活用いただいて構いません。面白い活用例などあれば、お知らせいただけると参考になりますので助かります。なお、クレジットの際の作者名は「野本知理」または「NOMOTO Tomonori」,URLは「http://T.NOMOTO.org/」または「http://spectra.nomoto.org/」です。
↑1 | たとえば…スマートフォン対応 超小型分光計 GoSpectro |
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↑2 | たとえば…簡易分光器製作キットMJや簡易分光計製作キット YD-10など。 |
↑3 | たとえば 「イラストレイテッド 光の実験,大津 元一(監修)/田所 利康(著), 2016年, 朝倉書店」ではCD-Rを使った簡易分光器の作り方が紹介されています。こちらはデジタル一眼カメラ用ですが、透過型回折格子(反射膜を除去したCD-R)とスリットで構成されているという点ではこの記事と同様のものになります。 「コンパクトディスク (CD) を使った簡易分光器(小・中・高のページ),化学と教育 44巻 10号 (1996) p.676」ではCDを反射型回折格子とした簡易分光器が紹介されています。 「光を分ける—簡易分光器とそれを使った実験,化学と教育 65巻 2号 (2017) p.76-79 (型紙)」でもDVDを反射型の回折格子として使った簡易分光器が紹介されています。こちらの分光器はコンパクトでスマートフォンにも使いやすい分光器ですが、内部に1枚貼り付けて使用している鏡をどうすればよいか戸惑うかもしれません。 「セッピーナの趣味の天文計算」というサイトでもDVDを使用した簡易分光器が紹介されています。こちらもDVDを反射型の回折格子として使用して、高分解能のスペクトルが得られています。 |
↑4 | たとえばダイソーのA3片面コート厚紙4枚,厚さ0.385mmはコピー機(Fuji-Xerox DocuCentre-VII C4473)のA3トレイ自動給紙の印刷は難しかったですが手差しトレイ給紙時に少し押し込んでアシストすると印刷できました。モンディハイパーレーザーコピー A3 250GはA3トレイから印刷可能でした(ダイソーの片面コート厚紙に比べると少し薄手です)。ダイソーの厚紙両面白色A3用4枚入りについては、A3より少し大きいので切り取ってA3サイズに合わせて試しましたが、片面コートタイプよりさらに分厚いので、手差しトレイで相当タイミングよく押し込まないとコピー機に入っていきません。ダイソーならA3片面コート厚紙のほうをおすすめします。 |
↑5 | 花火のスペクトルとしては「【第46回】科学ライブショー「ユニバース」on YouTube Live」もご覧ください。また、(株)グリーン・パイロラントの「分光器で計測したスペクトル」というページも参考になりそうです。 |