5.1 熱力学の系とエネルギー

ここからは熱力学の話に入る。熱力学は、平衡状態の系の間でやり取りされる熱や仕事、エネルギーといったマクロな物理量について説明するための枠組みである。熱についての観察をもとに、起きている自然現象を矛盾なく普遍的に説明できる枠組みとして熱力学は構築されてきた。古典力学や量子力学が物体の運動や電子・原子の振る舞いの観察結果を説明できる理論として、いくつかの仮定・法則をもとに組み立てられているのと同様、熱力学についても3つの法則(第1法則、第2法則、第3法則)が基礎になっている。

熱力学の基本法則に入る前に、「系」や「外界」といった熱力学で使用される用語について説明をしておく。熱力学において、熱や仕事について議論しようとする対象のことを「系」(system)と呼ぶ。たとえばビーカーの中の溶液の化学反応について議論したいならば、その溶液が「系」である。また、この世界は知りたい「系」だけではできていない。系の外側と熱や光、エネルギー、物質のやりとりも行われている。そこで、「系」の外側を「外界」(bath)、「周囲」(surroundings)と呼ぶ。また、系と外界をあわせた全体は「宇宙」(universe)と呼ばれ、熱力学はこの「宇宙」の中で議論を行うことになる。「系」について実際に議論を行う際は、体積や温度、圧力など、「系」の状態を特徴づける量を取り扱うことになる。これは「状態変数」(state variables)・「状態関数」(state function)と呼ばれる。

・系(system):調べようとする対象
・外界・周囲(bath, surroundings):系の外の部分すべて
・宇宙(universe):系と外界を合わせた全体
・状態変数・状態関数(state variable, state function)
 :系の状態を表す変数として選んだ量:P,V,T,nなど

さらに、「系」で起きる現象で、熱や物質は「系」の内外で出入りすることもあるし、出入りしないこともある。そこで、物質・熱・仕事の出入りの仕方によって、「孤立系」・「開放系」・「閉鎖系」・「断熱系」の4種類に分類されている。

系の種類

・孤立系(isolated systm):物質・熱・仕事すべての出入りが遮断、周囲と相互作用なし
・開放系(open systm):物質・熱・仕事すべての出入りがある
・閉鎖系(closed systm):物質の出入りは遮断、熱と仕事の出入りはある
・断熱系(adiabatic systm):物質と熱の出入りは遮断、仕事は出入りする