簡易分光器によるラマンスペクトルの観察

目次


簡易分光器によるラマンスペクトルの観察

前回の記事では虫眼鏡を使うことで暗い発光現象にも対応可能な簡易分光器の製作を行いました。こうした簡易分光器とデジタルカメラをうまく使えば、化学において分析のために使用される吸収スペクトルや蛍光スペクトル、ラマンスペクトルの測定も行うことができます。今回の記事ではこの分光器を応用してラマンスペクトルを観察することを試みます。

なお今回の記事内容と全く同じではありませんが、準じた内容はYouTubeでもライブ実演(1回目2回目 )行いました。そちらも併せて参照ください。


ラマン散乱とは

物質に光を入射すると、光は散乱されます。たとえば牛乳が白く見えるのは、牛乳中の脂肪・タンパク質粒子が太陽や照明の白色光を散乱するからです(ミー散乱)。水や空気といった、光の大部分が透過してしまう物質の場合も、一部は散乱されます(レイリー散乱)。こうした光散乱では通常、入ってきた光と同じ色の光が散乱されます。しかし、ごく一部の光はもとの光とは異なる色の光として散乱されてしまいます。これがラマン散乱です。たとえば下の写真は、エタノール(お酒や消毒薬に入っているアルコール)に青色レーザー光(波長488 nm)を当てたときに出てくる散乱光を分光したときのスペクトルをデジタルカメラで撮影したときの画像です。中央右に白く見えている明るい縦線が入射光のレイリー散乱です。そして入射光の左に緑や黄緑、オレンジ色の縦線がいくつかありますが、これらがラマン散乱光です。

エタノールのラマンスペクトル画像

ラマン散乱は分子を構成する原子が分子内で動いていることによって(振動することで)生じるものなので、分子の種類によって違った様子になります。たとえば下の2つの画像は、エタノールとシクロヘキサンという2つの分子のラマンスペクトル画像です。

2つの分子で、線が現れる位置や色が違っていることがわかるでしょう。この画像の場合、左側のエタノールのスペクトル画像には赤い縦線が左端に見えていますが右のシクロヘキサンでは赤い線は見えていません。これはエタノールに含まれるO-H基(酸素ー水素の結合)の伸縮運動に由来した光散乱だからです。一方、エタノールの赤い縦線の右隣りの緑の線とシクロヘキサンの左端の緑の線はどことなく似ていてどちらも明るく光っています。これはどちらもエタノールとシクロヘキサンに共通するC-H(炭素ー水素)結合の伸縮運動に由来するものです。どちらの分子にもC-H結合が含まれているため、同じような色で見えていることになります。

このように、ラマン散乱は分子の構造を反映したスペクトルを得ることが可能な光散乱です。実際に化学で解析する場合はスペクトル画像下に示した黄色い線のように、スペクトル画像からそれぞれの輝線の明るさを求めて、色ごとに(波長ごとに)プロットしたグラフを作って分子構造や化学現象について議論することになります。

今回の記事では、上に示したようなラマンスペクトル画像をデジタル一眼カメラと簡易分光器を使って撮影できるようにしてみます。



実験と観察例

準備したもの

  • レンズありの明るいタイプの簡易分光器(スリットは1㎜程度かもうすこし開けます)
  • 緑色レーザーモジュールとその電源:たとえばアマゾンのASIN:B07MYJ3J4W(Qiaoba グリーンレーザー 532nm GM-20)とか米アマゾンのASIN:B01MRSUG6C(Qianfabeam Green Laser Modules Laser Diodes 532nm)とか。3Vくらいの電源を用意して導線に接続します。*1これらのレーザーはクラス2として販売されていますが、測定してみると実際には数十mWの出力がありますので、絶対に覗き込んだり人に当てようとしてはいけません。スクリュー管など。ガラス曲面部をレーザーに入れる場合も、思わぬ方向に光が飛ぶことがあるので、周囲に声をかけ、間違っても目に入ることがないよう注意ください。
  • 測定試料(ベンゼン、シクロヘキサンは散乱強度が強いので見やすいです。エタノールも見えます。アンチストークスラマン散乱が見たければ四塩化炭素が見やすいです。水は散乱強度が弱く見づらいです。)
  • 虫眼鏡×2個:簡易分光器を作るのとは別に、レーザーの集光用に2個使います。
  • 光学セルまたは試料を入れるスクリュー管などの透明容器
  • デジタル一眼カメラ(フルサイズ・APS-C・マイクロフォーサーズいずれも可。標準ズームかそれより明るいもの)
  • デジタル一眼カメラカメラをパンチングボードに固定するためのカメラねじ(本来は1/4-20UNC。W1/4でも代用可。)
  • ドリル(パンチングボードに6㎜穴をあけてカメラねじで固定するため)
  • フィルター:FUJIFILM SC54フィルターTiffen Orange #16 FilterHOYA O-54フィルタなど540 nmくらいから透過率があるフィルタがあると見やすくなります。Kenko YA3 プロフェッショナルも使えないことはないですが、透過域が560mからなので低波数域が見えづらく少々暗めになります。不要な散乱光・迷光が入らないようにうまく調整できればなくても見えます。アンチストークスラマン散乱はフィルタがあると見えません。
  • 100円ショップのパンチングボード、木材など。
  • 保護眼鏡:山本光学 NO.360S UVオレンジ UVカット&ブルーライト低減グラス 一眼形保護めがねYL-780 UVBG HT(ハイタイプ)レーザー保護めがね など(532 nm用)。

光学配置と制作例

デジタル一眼カメラでラマンスペクトルを観察するために今回準備する光学系をざっくり描くと、概ね下の図のようになるでしょうか。

起こることを一つ一つ順番に書いていくと次のようになります。

  1. はじめに、緑色レーザーモジュールの光をレンズで集光して、試料容器の底から照射します。
  2. 試料容器内でレーザー光が散乱され、散乱光はスリットを通って分光器に導入されます。
  3. 分光器に入った光はレンズを通って回折格子シートに導かれます。
  4. 回折格子シートに散乱光が照射されると、色ごとに向きが変えられます。
  5. 色ごとに向きが変えられた光をカメラで観察することで、スペクトル画像が見えることになります。

実際の制作例の写真と、制作例に即した概略図は下のようになります。

ポイントは、試料容器をスリットに接触させるような置き方をするとともにスリットを1㎜程度と広めに取って、レンズの有効径が活かされるように散乱光を集めることと、レーザーをスリット近くでなるべく細いビームになるように集光することとでしょうか。レーザー光がそれなりに強いことも前提です*2数十mWあればマイクロフォーサーズのデジタル一眼カメラでも十分見えます。。細かい点は下に説明していきます。

レーザー

まず、ラマンスペクトルを観察するにはレーザー光が励起光として必要です。最近は安いグリーンレーザーモジュール(波長532 nm)がAmazon等でいくつか売られているので、ACアダプタ*33~3.3Vくらいのもので一応は足りると思いますが、0.1V単位で電圧微調整可能な安定化電源ならレーザー出力を調整でき、調整時に暗くできるので安全性が高くなります。やDCジャックのついたケーブルを一緒に買って接続します。出力形状がラインやクロスと記載されているものは使えません。ドットと記載されているもの(レーザーを当てると光の点が見えるもの)を選びます。レーザーは強いほうが良いのですが、サイト上の情報からは強いか弱いかはわかりません。クラス2となっているのに数十mW出るものもあります。いずれにせよ、数十mW出るとライブビューでもそれなりにラマンが見えて測定にも調整にも便利です。10数mWくらいだと見づらくなる感じでしょうか。ただし、レーザーの散乱光が目に入らないように、とにかく細心の注意が必要です。あと、集光部に黒く塗った紙など持っていくと煙が出るので、火事にも注意です。

レーザーの色については532 nmのものが光強度的にも入手性的にもよいです。赤レーザーは光強度的にも波長的にも使用できないと思います*4赤レーザの波長は650 nmとか632 nmとかになると思いますが、このあたりの波長で励起されたラマン散乱光は700 nm前後かそれ以上の波長になり、デジタルカメラの近赤外カットフィルタでカットされる波長域も含まれるて感度が悪くなりますし、レーザーの強度も緑のものに比べると1/10とか1/100くらいに小さくなり、ほぼ見えないのではないかと思います。。もし研究室等で488 nmのアルゴンイオンレーザーなど490 nm付近で数十mW出るレーザーをお持ちでしたら、ちょうどデジタルカメラの青フィルタと緑フィルタの境界で透過率が低い領域なので、レイリー散乱光が押さえられて有利です。また488 nm励起だとOH伸縮域も綺麗に見えますが、532 nm励起だと暗く見えにくくなります。

レーザーの集光と試料台

つぎに、レーザーを集光する必要があります。レーザーを試料真下から垂直に打ち上げる関係上、焦点距離を短くしたかったので、今回は簡易分光器を作ったのと同じ虫眼鏡を2個重ねて使いました。

まずは、レーザー光が垂直に打ちあがるようにレーザーモジュールををテープルなどに垂直に固定します。下の写真のように、パンチングボードに木材を固定して、レーザーもその木材に固定してパンチングボードの穴からレーザーが出てくるようにするといった方法もあります。いずれにせよ、何かの拍子に外れて事故が起きないように、がっちり固定する必要があります。

写真:パンチングボードの下に木材キューブを固定して、それにレーザーモジュールを固定した様子。この例の場合はねじでクリップ固定したうえで挟んでいますが、もっときちんと固定できるならそのほうがよいです。

次に、パンチングボードをテーブルに固定して、穴からレーザーが上がるようにして、そこに虫眼鏡2個をつないだものを置きました。虫眼鏡が入る前に天井にレーザーが当たる場所に印をつけておいて、虫眼鏡が入っても同じ場所にあたるようにします。(レーザーを目に入れないように注意。危ないのでレーザーやレンズ、試料台はしっかり固定してください。)

写真:パンチングボードに2個重ねた虫眼鏡を置き、中心にパンチングボードが来るようにしました
写真:レーザーがレンズの中央を通っていれば、レーザー光は垂直に打ちあがります。

さらに、試料台を取り付けるために、パンチングボードの上に木材で試料台を作りました。今回の場合、レンズ2個でレンズの上5cmくらいの高さに焦点が来たので、レーザーが通るように100円ショップの木材やコースターにドリルで穴を空け、試料容器内部でビームが最も細くなるように製作しました。

写真:パンチングボードに虫眼鏡を設置した後、木材を使って試料台を作った様子。試料台には穴が開けてあって、下からレーザーが打ち上げられるようになっています。試料台による不要な光散乱を避けるために墨で黒く塗りました。

分光器とカメラの設定

今回の制作例では、レーザーとレーザー集光用レンズ、試料台は机や台に固定しましたが、分光器とデジタル一眼カメラについてはパンチングボードに固定してパンチングボードごと動かせるようにしてあります。*5SeriaのMDFパンチングボードだと、そのままだとカメラねじをねじ込めなかったので、使いたい穴を6㎜ドリルで拡張したうえでカメラねじをねじ込んで一眼カメラを固定しました。レンズによっては太くてカメラ底面のねじ穴がある面よりもはみ出てしまって、そのままではカメラをパンチングボードに固定できないかもしれません。その場合はパンチングボードとカメラのねじ穴の間に何かを挟む必要があります。分光器は輪ゴムで留めていますが、セロハンテープや両面テープで留めるのでもかまいません。重要なのは画面の中央にスペクトルが見える位置関係になるようにカメラと分光器を置くことと、パンチングボードを動かせばカメラと分光器が一緒に動くようになっていることです。

写真:試料台に使用容器を載せてレーザーを照射し、カメラと分光器を接触させた様子。パンチングボードの下の黒い部分はレーザーやレンズ・試料台を固定した台になります。
写真:試料台に接触するように分光器のスリットを配置しています。カメラのズームレンズは一番望遠の状態で固定しており、この例では分光器とカメラの間にフィルターを挟んでいます。

カメラについてはデジタル一眼カメラを想定しています*62016年発売のマイクロフォーサーズセンサー機の標準ズームセット(Panasonic G8M)でも撮影できているので、適切な設定がされれば最近の一眼カメラならOKと思われます。。レンズについては広角だとスペクトルが画面内で小さくなりすぎるので、中望遠レンズくらい(35mmフィルム換算で80 ㎜くらい)が使いやすいと思います*7分光器に45㎜の虫眼鏡と40㎜角くらいの回折格子フィルムを使っているということで、瞳径36㎜くらいのレンズ(100mmF2.8とか70mmF2, 50㎜F1.4など)より明るいレンズだとオーバースペックになりそうです。。カメラの設定としてはシャッター速度とF値ともにマニュアル調整行えるほうが良いでしょう。F値については、基本的には取り付けたレンズの一番小さい値にします。感度についても、ライブビューで調整する場合や動画撮影する場合は可能な限りISO値を上げる必要があります。一方、静止画のスペクトル画像として撮影・解析するにはより低いISO値で長時間露光するほうが綺麗なスペクトルになると思います。シャッター速度については、フォーカス調整時にレーザービームを見るときは短くする必要がありますが、それ以外は長くして、なるべく明るく見えるように設定します。

フィルターについては、デジタル一眼カメラのレンズに取り付けるか分光器の回折格子の間に挟みます。レイリー散乱が減ってラマン散乱が見やすくなります。

試料の設置と散乱光の導入・調整

試料についてはベンゼンやシクロヘキサンがラマン散乱強度が大きく見やすく調整に向いています。エタノールでも一応は見えますが、先の2つに比べると弱いので少し見づらい場合があります。試料容器としては底面が平らで透明な容器が必要です。側面については蛍光用光学セルのような側面が平ら容器でも、スクリュー管のように側面が曲面の容器も使用できますが、液面のメニスカスや容器の曲面部分に当たったレーザーが思わぬ方向に飛んでいくので注意が必要です。

写真:試料台に蛍光用光学セルを置き、レーザーを入射した時の様子
写真:スクリュー管を置いてラマンスペクトル画像が見えている時の様子

試料台に試料容器を置き、中央ではなくスリットに近い位置にレーザーが集光されるようにします。分光器とカメラについてはスリットが試料容器に接触するくらいの位置に配置します。そしてレーザーを点灯したとき、レーザーの散乱光がスリットを通して導入されるような位置関係にする必要があります。うまく設置できていると、スペクトルの緑の位置にレーザービームが縦線として見えるので、フォーカス調整をしてレーザービームが一番くっきりと見えるように調整します。*8レーザービームの確認時はシャッター速度を短くしてください。この調整もフィルタがある方が見やすいです。

写真:露光時間が短いとき(1/20s, ISO3200)の試料中のレーザービームの様子。明るいほうの縦線が液体(ベンゼン)中を通るレーザー。この線がくっきり見えるように拡大してフォーカス調整を行います。なお、この例のレーザービーム右側の暗い線はスリットで散乱したもので、こういった散乱が少なくなるように調整したほうがよいです。(スクリュー管・SC54フィルタ使用。α7III 75mmF2.8, センサーサイズはAPS-Cに設定 )
写真:露光時間を長くしたとき(10s, ISO3200)のベンゼンのラマンスペクトル画像。レーザーの左側に見える複数の縦線がラマン散乱のスペクトル。(励起波長532 nm,スクリュー管・SC54フィルタ使用。α7III 75mmF2.8,センサーサイズはAPS-Cに設定 )

レーザービームによる散乱光が見えないようなら、試料容器は動かさないようにしながらカメラ+分光器が乗っているパンチングボードを少しずらしてレーザービームがスリット越しに見えるようにします。レーザーが入っていて見見えづらいことも多いと思いますが、分光器の位置調整とともにフォーカス調整も行い、レーザービームがくっきりと見えるように設定する必要があります*9今回撮影されるラマンスペクトルの分解能はこのビームの細さに掛かっています。レーザーの集光位置とカメラの高さが合っていないようならレーザーの高さを調整しなおしてカメラが見ている高さにレーザービームが一番細くなっている箇所が来るようにします。

無事レーザービームが確認でき、一番細くなるようにフォーカス調整が完了したところでシャッター速度を長く、ISO値を大きして感度を上げると、レーザーラインの左側に緑や赤の縦線が何本か見えるようになるかもしれません。それがラマン散乱です。このとき試料容器の底や壁、フタおよび試料台がレーザーで強く散乱されて光ってしまうと、分光器の中に入り込んで迷光になってしまい、ラマン散乱が見えづらくなってしまうので、なるべくこうした妨害光がスリットのところに来ないように試料容器を選び、分光器の高さを調整します。

ラマン散乱が見えたようなら、さらにレンズのフォーカスリングを回してラマン散乱が一番くっきり見えるよう調整したのち、シャッターボタンを押してラマンスペクトルの撮影を行います。よりノイズが少ない綺麗なスペクトル画像を得るためには、感度のISO値を控えめ(ISO800~3200くらい)にして10秒とか30秒といった長めの露光時間にした方がよいかもしれません。

撮影されたラマンスペクトル画像の例

実際に撮影されたラマンスペクトル画像を下に示しました。ページの最初のほうで示した488 nm 励起時のスペクトルはCH伸縮が緑に見えていましたが、532 nmのグリーンレーザーをラマン散乱の励起光とした場合は、CH伸縮くらいがオレンジか赤色に見えます。OH伸縮域も赤ですが、感度の関係上暗くほとんど見えていません。

写真:シクロヘキサンのラマンスペクトル画像。(フィルタなし。α7III 75mmF2.8, ISO3200, 30s )
写真:左と同じ条件のシクロヘキサンのラマンスペクトル画像。(SC54フィルタあり。α7III 75mmF2.8, ISO3200, 30s )
写真:グリーンレーザー(532 nm)によるエタノールのラマンスペクトル画像。左端の赤線がCH伸縮に対応。蛍光用光学セル・SC54フィルタ使用。Panasonic G8 (マイクロフォーサーズ) 60mm F5.6, ISO3200 10s。レーザーラインの下部白くなっている部分はセル底部の光散乱。できることならばこの部分がスリットから見えないような資料高さにしたほうがよい。

ラマン散乱は光の散乱現象なので、分子自身が光るような性質(蛍光)を持つと、そちらに埋もれてしまいます。また今回の配置は液体内で集光されたレーザービームの幅が分解能になる関係で、透明な液体の観察には向いていますが、粉末や懸濁液など励起光の散乱が大きな試料については迷光が大きくなったり分解能が悪化したりしてスペクトルがわかりづらくなるかと思います。

写真:蛍光性試料を置いたときの様子。ラマンの線スペクトルとは違い、幅広い蛍光スペクトルが観察されている。

まとめ

というわけで、今回はラマン簡易分光器にデジタル一眼カメラと緑色レーザーモジュールを組み合わせてラマンスペクトルを撮影するという実験を紹介しました。強いレーザーを使用するため万人向けとは言い難い実験ですが、使用する液体によって色や見え方が大きく変わる点は面白いと思います。いまどきはデジタル一眼カメラの普及率は高いでしょうし、材料自体は安価なので、高校のクラブ活動や大学の学生実験などで、経験者が指導・配慮可能な環境でしたら、お試しいただけるかもしれません。

この記事の内容の一部は「Color-Observable Simple Raman Spectroscope for Live Exhibitions Using a Consumer Digital Camera, J. Chem. Educ. 2021, 98, 10, 3356–3361」および「デジタル一眼カメラを使った演示用簡易ラマン分光器, 分光研究, 71(1), 2022, 22」に掲載された内容です。また、同じ簡易分光器は使用していないものの、この記事の実験内容に近い内容のライブ実験配信をYouTubeでも公開しています:「【第32回】科学ライブショー「ユニバース」on YouTube Live」「【第59回】科学ライブショー「ユニバース」on YouTube Live」 ので参考にしていただければと思います。また、この記事を引用する際は上記論文や動画も併せて参照いただけますと幸いです。

References
1 これらのレーザーはクラス2として販売されていますが、測定してみると実際には数十mWの出力がありますので、絶対に覗き込んだり人に当てようとしてはいけません。スクリュー管など。ガラス曲面部をレーザーに入れる場合も、思わぬ方向に光が飛ぶことがあるので、周囲に声をかけ、間違っても目に入ることがないよう注意ください。
2 数十mWあればマイクロフォーサーズのデジタル一眼カメラでも十分見えます。
3 3~3.3Vくらいのもので一応は足りると思いますが、0.1V単位で電圧微調整可能な安定化電源ならレーザー出力を調整でき、調整時に暗くできるので安全性が高くなります。
4 赤レーザの波長は650 nmとか632 nmとかになると思いますが、このあたりの波長で励起されたラマン散乱光は700 nm前後かそれ以上の波長になり、デジタルカメラの近赤外カットフィルタでカットされる波長域も含まれるて感度が悪くなりますし、レーザーの強度も緑のものに比べると1/10とか1/100くらいに小さくなり、ほぼ見えないのではないかと思います。
5 SeriaのMDFパンチングボードだと、そのままだとカメラねじをねじ込めなかったので、使いたい穴を6㎜ドリルで拡張したうえでカメラねじをねじ込んで一眼カメラを固定しました。レンズによっては太くてカメラ底面のねじ穴がある面よりもはみ出てしまって、そのままではカメラをパンチングボードに固定できないかもしれません。その場合はパンチングボードとカメラのねじ穴の間に何かを挟む必要があります。
6 2016年発売のマイクロフォーサーズセンサー機の標準ズームセット(Panasonic G8M)でも撮影できているので、適切な設定がされれば最近の一眼カメラならOKと思われます。
7 分光器に45㎜の虫眼鏡と40㎜角くらいの回折格子フィルムを使っているということで、瞳径36㎜くらいのレンズ(100mmF2.8とか70mmF2, 50㎜F1.4など)より明るいレンズだとオーバースペックになりそうです。
8 レーザービームの確認時はシャッター速度を短くしてください。この調整もフィルタがある方が見やすいです。
9 今回撮影されるラマンスペクトルの分解能はこのビームの細さに掛かっています。レーザーの集光位置とカメラの高さが合っていないようならレーザーの高さを調整しなおしてカメラが見ている高さにレーザービームが一番細くなっている箇所が来るようにします。