1.5 時間に依存しないシュレディンガー方程式


一般的な化学の入門書では、「時間に依存しないシュレディンガー方程式, E\Psi=\hat H\Psi 」、というものがシュレディンガー方程式(波動方程式)として提示されることが多い。これは先に出てきた「時間に依存するシュレディンガー方程式」(1.4.8) の特別な形だ。どう特別かというと、この式は波動関数を $$\psi(x,y,z,…,t)=\Psi(x,y,z,…)e^{-\frac{2\pi iEt}{h}}\tag{1.5.1}$$ と表すことができる場合にだけ成り立つという点で特別である。この式、左辺の\psi(x,y,z,...,t)は位置と時間の関数になっているのに対し、右辺の\Psi(x,y,z,...)は位置だけの関数になっていて、時間成分はe^{-\frac{2\pi iEt}{h}}だけに入ってるので、位置に依存する部分と時間に依存する2つの部分が掛け合わされた形になっている。

波動関数をこの形で表すことができる場合、もとの時間に依存するシュレディンガー方程式は $$\frac{ih}{2\pi}\frac\partial{\partial t}\Psi(x,y,z,…)e^{-\frac{2\pi iEt}{h}}=\hat H\psi(x,y,z,…)e^{-\frac{2\Pi iEt}{h}}\tag{1.5.2}$$ となる。ここで、\Psi(x,y,z,...)は位置の関数になっているのに対してe^{-\frac{2\pi iEt}{h}}は時間の関数になっている。時間に依存するシュレディンガー方程式では、左辺の偏微分は時間 t に対して行うものだったので、この式の左辺を実際に偏微分すると$$\frac{ih}{2\pi}\cdot -2\pi iE\Psi(x,y,z,…)e^{-\frac{2\pi iEt}{h}}=\hat H\Psi(x,y,z,…)e^{-\frac{2\pi iEt}{h}}\tag{1.5.3}$$となる。また、右辺\hat Hの中にある偏微分は空間 (x,y,z) に対して行うものだったので、時間に依存する部分e^{-\frac{2\pi iEt}{h}}\hat H内部で行う偏微分には関係ない。つまり、$$e^{-\frac{2\pi iEt}{h}} \cdot E\Psi(x,y,z,…)=e^{-\frac{2\pi iEt}{h}} \cdot \hat H\Psi(x,y,z,…)$$のように書いてしまっても式は成り立つだろう。さらには、e^{-\frac{2\pi iEt}{h}}の部分も消してしまって、$$E\Psi(x,y,z,…)=\hat H\Psi(x,y,z,…)$$、または

$$E\Psi=\hat H\Psi\tag{1.5.4}$$

のように書いたとしても式は成り立つことになる。この式が「時間に依存しないシュレディンガー方程式」である。

この形になると、もとの式にあった時間変数 が消えてしまっているため、時間によって変化するような条件に適用することはできないが、状態が時間で変わらないような状況には適用することができる。*1このとき、波動関数の絶対値の二乗は|\psi(x,y,z,t)|^2=\Psi^*(x,y,z)e^{+\frac{2\pi iEt}{h}}\Psi(x,y,z)e^{-\frac{2\pi iEt}{h}}=|\Psi(x,y,z)|^2となるので、時間によって存在確率が変化しないような状態になっている。
つまり、時間に依存しないシュレディンガー方程式の解 \Psi(x,y,z) についても \psi(x,y,z,t) と同様、2乗したものはそれぞれの位置における存在確率になる。

それでは、このようにして波動関数から時間に関係する e^{-\frac{2\pi iEt}{h}} の部分を省いてしまった式はどう使えるのか?…このように時間を省いた式で表すことができるものとして、原子や分子が1個だけぽつんと浮かんでいて化学反応等の変化が起きない状態…つまり原子や分子の状態が時間によって変化していない状態がある(このような状態は定常状態と呼ばれる)。次節以降見ていくように、この時間に依存しないシュレディンガー方程式を使うと、分子や原子の状態や化学結合について多くのことを説明可能である。それゆえ化学の教科書で分子や原子の紹介をするときは、時間に依存しないほうのシュレディンガー方程式が真っ先に紹介されることも多く、その場合はこの式がシュレディンガー方程式と略されることになる。

ただ、前節で出てきたように量子力学の基本方程式はあくまで時間に依存するシュレディンガー方程式のほうである。次節ではこの時間に依存しないほうのシュレディンガー方程式を解いた結果として原子の波動関数を紹介するが、これも時間に依存するシュレディンガー方程式の解としてみた場合はやはりe^{-\frac{2\pi iEt}{h}} が掛かったものになる。

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1. このとき、波動関数の絶対値の二乗は|\psi(x,y,z,t)|^2=\Psi^*(x,y,z)e^{+\frac{2\pi iEt}{h}}\Psi(x,y,z)e^{-\frac{2\pi iEt}{h}}=|\Psi(x,y,z)|^2となるので、時間によって存在確率が変化しないような状態になっている。
つまり、時間に依存しないシュレディンガー方程式の解 \Psi(x,y,z) についても \psi(x,y,z,t) と同様、2乗したものはそれぞれの位置における存在確率になる。